最上級の憂鬱

心がどろどろに溶けて何もかもが流れ出てしまう感覚。汚い言葉がたくさん出てきて周りの人から避けられて疑心暗鬼を募らせて自己嫌悪に陥って「死にたい」って言葉を免罪符にした。生きていることの意味なんて結局誰も分からないんだと、何百億人が呟いたんだろう。

毎朝起きるのはギリギリ出勤に間に合う時間で、起きてすぐ顔を洗って髪の毛を結び化粧をして服を着替える。歯磨きをして口紅を塗ったら外へ飛び出す。お昼に一度家に戻って休憩をして夜まで働く。だけの、日々。休みの日はいつも仕事の疲れを取るために何もしないまま終わっている。人生。こんなことを繰り返して100歳まで生きることに意味なんてないってことに、気付いてしまった。私は大人になったんだ。不意に泣きたくなって涙を堪えて誰にも打ち明けられない悩みを抱えていずれ死ぬんだろうと思う。

広げたはずの世界で呼吸することすら少しだけ息苦しくなって、いろんなことから目を背けている。思い込んで。言い聞かせる。泳げないなら溺れて沈んでしまえたらいいのに。好きでいることが義務になる前に、諦められたらよかった。同じ失敗を繰り返すよ。同じ人間だから。泣いたって解決しないことも知っている。このままじゃだめなことも知っている。自分が変われば何かが変わることも、少しだけ死にたい気持ちがなくなることも。全部。

私の毎日は、死んでしまった。私が殺した。何をしたって楽しくなくて、ずっと何かに怒っている。口汚く罵った後、少しだけ後悔をして、死んでしまえば全部なくなるのに、と思って終わる。こんな日々が続くなら、明日にでもすべてがなくなってしまえばいいと思う。

楽しみなことも大好きだった人も、どこかで穏やかに、健やかに、ずっと続いてほしい。私はもう誰のことも本当に好きでい続けられない。きっとひとりぼっちで、嬉しい気持ちも悲しい心も深く深く掘った土の中に埋めて、空っぽのまま消えていく。

粛々と

好きだった先輩が結婚した。

私は世界で一番好きなバンドが二度目のワンマンライブをするのを見に行っていた。終わったあとキャッチのお兄さんに連れられて狭いテーブルを囲んで安いお酒を飲み交わしていた。土曜の夜に十数人が予約もなしに入れるお店。少しだけ失敗したかもという雰囲気が流れていた。不意に鳴ったiPhoneの通知を見たとき私はどんな顔をしていたんだろう。グループLINEでみんなが祝福の言葉を述べているのを見て、既読無視をした。へべれけになるまで飲んで、ライブの感想を言い合った。楽しいのに苦しかった。

従業員食堂でご飯を食べて食器を洗っているときに思い出した。そうか、結婚したのか。もう私のものにはならないのか。一緒にお酒を飲んで「結婚はいいぞ〜」なんて言い出すのだろうか。こないだは、そんなこと一言も言わなかったなあ。何も言われないのも存外しんどいなあと思った。幸せなのに幸せじゃないみたいな振る舞いをするのはなんか違うから、もっと幸せですって顔していればいいのに。そのほうがずっと楽でいられる。

「そういえば結婚式やるんだよね」って、そんな事後報告みたいに、酔っぱらったついでみたいに。呼ばれても行かなかったけど。せっかくなら呼んでくれたらよかったのに。仕事が忙しいから無理って盛大に断ったのに。

終電まではまだ時間があったけど、奥さんの仕事が終わったらしいけどこのあとどうするって言われたので帰りましょうと返した。すぐに女を合流させようとする男も来たがる女も嫌いだなあと思った。きっとそのうち子どもができてもう私には会ってくれなくなるんだろうな、なんてどうでもいいことを考えて帰路についた。

おすすめされた漫画はいまいちピンとこなくて、私の好きな音楽は向こうの心に響かなかった。こうやって少しずつずれていくのかなと思った。