粛々と

好きだった先輩が結婚した。

私は世界で一番好きなバンドが二度目のワンマンライブをするのを見に行っていた。終わったあとキャッチのお兄さんに連れられて狭いテーブルを囲んで安いお酒を飲み交わしていた。土曜の夜に十数人が予約もなしに入れるお店。少しだけ失敗したかもという雰囲気が流れていた。不意に鳴ったiPhoneの通知を見たとき私はどんな顔をしていたんだろう。グループLINEでみんなが祝福の言葉を述べているのを見て、既読無視をした。へべれけになるまで飲んで、ライブの感想を言い合った。楽しいのに苦しかった。

従業員食堂でご飯を食べて食器を洗っているときに思い出した。そうか、結婚したのか。もう私のものにはならないのか。一緒にお酒を飲んで「結婚はいいぞ〜」なんて言い出すのだろうか。こないだは、そんなこと一言も言わなかったなあ。何も言われないのも存外しんどいなあと思った。幸せなのに幸せじゃないみたいな振る舞いをするのはなんか違うから、もっと幸せですって顔していればいいのに。そのほうがずっと楽でいられる。

「そういえば結婚式やるんだよね」って、そんな事後報告みたいに、酔っぱらったついでみたいに。呼ばれても行かなかったけど。せっかくなら呼んでくれたらよかったのに。仕事が忙しいから無理って盛大に断ったのに。

終電まではまだ時間があったけど、奥さんの仕事が終わったらしいけどこのあとどうするって言われたので帰りましょうと返した。すぐに女を合流させようとする男も来たがる女も嫌いだなあと思った。きっとそのうち子どもができてもう私には会ってくれなくなるんだろうな、なんてどうでもいいことを考えて帰路についた。

おすすめされた漫画はいまいちピンとこなくて、私の好きな音楽は向こうの心に響かなかった。こうやって少しずつずれていくのかなと思った。